症例集Case study
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卵管機能の問題解決をしたことにより妊娠に至ったと思われる症例
41歳 女性 の症例- 卵管機能
「卵管の詰まり」や「癒着」などの異常を発見するために、西洋医学的検査では、子宮卵管造影検査および腹腔鏡検査というものがあります。 しかし、この検査では「卵管の機能性」についてまでは検査できません。 そのため、この部分はブラックボックスとなっており、体外受精を行い、妊娠して、初めて、『この患者は卵管の機能不全であった可能性が高い。』という診断に至ることがあるのです。
初診 1- これまで人工受精を7回続ける。妊娠兆候は一度もなし。
- この患者様は、自然妊娠を希望しているが、今月から病院で体外受精を受ける予定。(鍼灸 治療を併用したいとのこと。)
- 医師からは「人工授精は基本6回までで、それ以上行っても、妊娠例はほぼゼロ。」と、以前から説明されていたものの、これまで踏み切れなかったが、今回は体外受精を決意したという。
- 体外受精も、鍼灸治療も初めて。ということで、緊張した様子が見られた。
所見 2- 緊張のためか、早口で話が途切れないほどよく話す。(自分の現在の状況を一通り話すと、少し落ち着いたようだった。)
- 問診にて、黄体機能不全で、左の漿膜下筋腫が5cmある(左の卵管をつぶしている)ことを話してくれた。
- 生理に塊が混じる。大きさは2~3cm。
- 排卵が遅い。(生理開始日から平均20日目前後)
- 下肢のむくみが顕著で、恥骨の直上が硬くなっている。子宮筋腫に触れる。
- 肩こり、腰痛、頭痛があり、足の冷えを自覚している。
- 腹診すると、右期門(肝臓の真上にあるツボ)に邪気がある。また腹部全体が硬い。
鍼灸治療 3①以下を基本穴とし、1-0番鍼を切皮程度に刺入し、置鍼を15分間行った。
- 血液の滞りをなくすため→三陰交。
- 月経不順→子宮穴と中極。
- 消化器系の改善→中脘。
②同穴に半米粒大の灸を行った。
③下肢の肝経の圧痛点にも上記の鍼灸治療を加えた。
④曲骨とその2cm外方に、寸6-3番鍼でひびきを感じる程度に刺入後、15分置鍼を行った。
生活・マクロビ指導 4忙しい仕事を抱え、徹夜で仕事をし、海外出張などもこなし、生活全体が落ち着くことはない。仕事が楽しく、辞められないが、子どももほしい、とのこと。
- 『塩を多く摂らない日』を週に2日作ってもらい、普段も塩分控えめにする。
- 水分を多くとる。
- 本人が苦手な『酢の物』などを多く食する。
- 『しょうが』などで味を調えてもらい、野菜や豆腐を冷たい状態で食べてもらう。
※食事はマクロビオティックでいう『陰性』に変えてもらった。
経過 5【鍼灸治療を受診していたときの、人工授精などの結果】
①4診目:8回目の人工授精。子宮内膜は12mmと十分な厚さだったが、結果は妊娠に至らず。
②8診目:9回目の人工授精。子宮内膜は11.6mmと十分な厚さだったが、妊娠に至らず。
③13診目:タイミングを計って夫婦生活を行う。病院へは行っていない。結果は妊娠に至らず。
④15診目:13診目と同じく。結果は妊娠に至らず。
⑤18診目:体外受精周期3日目。誘発方法は変則的アンタゴニスト法(詳細は省略)で、採卵数4。同周期一つを移植したが、結果は妊娠に至らず。 (凍結を目標とし2つを胚盤胞まで培養したがそちらも凍結できなかった。)
⑥ 23診目:お休み周期。病院にもよるが、体外受精の次の周期は卵巣を休めるために、『お休み周期』と称し、タイミングをとってもいいし、何もしなくてもいい周期という指示が出る。
⑦27診目:自然排卵を待って、タイミングを計って夫婦生活を行う。妊娠チェッカーによって、妊娠反応が見られた。 (妊娠に至るまで半年間かかった。その後、12週目までは当院でケアを行った。)
考察 6- 体外受精は現在、決して万能ではない。(「卵子の質がよく、卵管と子宮の状態がよければ妊娠する。」ということを忘れてはならない。)
- 卵子の質を上げる治療ももちろんだが、卵管の機能を改善したことが自然妊娠につながったと考えている。
- 自然妊娠するには、先に上げた「食事」、「消化」、「循環」の3原則の次に、「自律神経の安定」や「心の安定」が大切になる。 この患者様の場合は、
①鼡径部の緊張を緩める。
②胃腸の働きを改善させる。
③免疫の強化&自律神経の安定。
を目指した結果、よい結果につなげることができたと考えている。 この患者様もそうだが、多くの患者様をみていると、古典にあるような「腎陽虚」(全身の無力症状に冷えを伴う病態)の患者様は少なくなっているように思う。
この症例の執筆者
関村 順一SEKIMURA JUNICHI
院長 鍼・灸・あマ指師
患者様の仕事の関係で、体外受精が延期となったため、体質を変えるだけの時間をもらうことができました。
鍼灸治療は、鼡径部(大腿部の付け根にある溝の内側にある下腹部の三角形状の部分)の緊張を解くため恥骨付近のツボを使用。 すべてが同じ経穴を使ったわけではなく、適宜変化を加えたが、基本的には肝経の治療を中心としました。
腹部全体の硬さは、16診目で改善の傾向が見えました。その後、体外受精のHMG注射により筋腫は大きくなり、また、腹部の緊張が強くなりました。
腹部の張りから、注射はあまりよくないと考え、次回の体外受精は、自然に近い方法の病院への転院を勧めていた矢先に、自然妊娠に至りました。