症例集Case study
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子宮環境をよくして妊娠に至ったと思われる症例
37歳 女性 の症例- 子宮づくり
子宮内環境を西洋医学的に観察できる主たる検査は、子宮鏡を用いたもので、子宮内のポリープや筋腫による卵管接合部の圧迫がないか?などを詳細に見ることができます。
また、子宮鏡より不鮮明ではありますが、経膣超音波によるものでも、ポリープを発見できることがあります。さらに、経膣超音波では子宮内膜の肥厚の計測が可能です。
子宮環境をよくすることで、妊娠しやすい状態にするための一つの方法として、『子宮内膜を厚くすること』が挙げられます。
それには、子宮内膜を厚くする卵巣から出るホルモンである「エストラジオール」(E2)の量が増えなければなりません。
鍼灸治療では、
①卵巣の血流を改善。
②ホルモン量を増やす&子宮の血流をよくする。
③子宮内膜を厚くしていく。
という方針になります。
初診 1- さまざまな西洋医学的な検査を済ませたが、問題が見つからず、「原因不明」と病院の医師に言われ、当院に来院した。
- 生理の状態は出血量がここ数年少なくなった。
- 生理痛はなく、塊もない。「生理周期が25日と短くなってきている」とのこと。
所見 2- 腹診:胸脇苦満を認める。
- 右下腹、および右耳の上辺りに邪気反応があった。
- 基礎体温表より、排卵日が10~11日ごろと考えられ、問診で聞いた実際の生理と比べると、生理周期が25日と短くなっている。
鍼灸治療 3①症例1と同様に、以下3穴を基本穴とした。1寸-0番鍼で切皮程度に刺鍼し、15分の置鍼。さらに、同穴に半米粒大の灸を行った。
- 血流の滞りをなくすため→三陰交。
- 子宮周りの血流へのアプローチ→中極。
- 患者が月経不順のため→子宮穴・奇穴。
②頭部の邪気点を消去するため、胆経の右絶骨にも同様の治療を行った。
③肝経の圧痛点にも、上記の鍼灸治療を行った。
【邪気反応とは?】
邪気反応とは、手で触れると術者の手にピリピリとする感触が感じられるものです。
脳下垂体(脳の直下に存在し、多くのホルモンを分泌する内分泌器官)の問題は、胆経の反応が出ることが多く、この症例も側頭部に邪気反応が感じられました。
この患者様は、邪気反応を初診から感じたため、その感覚が消える胆経上の穴を探りました。
この症例に限らず、その感覚が消える穴は、絶骨《足の外くるぶしの最高部から4指の幅(3寸)上》 付近にあることが多いのです。
生活・マクロビ指導 4食事などに大きな問題点はなかったので、この方の心理的プレッシャーを軽減させるため、
「赤ちゃんがほしい」という意識から、「自然に授かればよい」という意識に変えていくように、できるだけ丁寧にお話をさせていただきました。
経過 5①2診目:頭部の邪気反応が消える。
②4診目:排卵までの日数が延びた。
③5診目:胸脇苦満に改善があった。
④10診目の治療以降:「ここ2周期、“おりもの”もはっきりと確認できるようになった」とのこと。
⑤15診目の治療後、自然妊娠。
排卵までの日数が延び、『“おりもの”がはっきりと確認できるようになった。』 と、身体に変化に自覚がみられるのは、「脳下垂体-卵巣」のバランスが整ってきたからだと推測されます。
“おりもの”は「エストラジオール」(子宮内膜を厚くする卵巣から出るホルモン)が十分に出ていると、子宮内に精子を取り込めるように変化していきます。
この患者様の初診時で感じた頭部の邪気反応が、2診目にはすでに消えていたことから、初診時で、この患者様の治療の基礎は完了していたと推測されます。
邪気が激しく出ている患者様は、正気も十分にあり、自然治癒力もあるので、邪気を取り除くと勝手に気が身体を治していきます。その後は、子宮の血流をよくする基本穴と肝経の圧痛の治療を行うだけでよいのです。
考察 6- 脳の下垂体の反応がよく出る絶骨を使った点や、中極・子宮などの基本穴がホルモンバランスを整え、子宮環境をよくして妊娠に至ったと思われる。
- 子宮内膜を厚くするためには、脳へのアプローチも必要だと考えている。
この症例の執筆者
関村 順一SEKIMURA JUNICHI
院長 鍼・灸・あマ指師
所見3つ目の 「生理周期が短くなっている」 という症状では、排卵が早く、卵胞が十分な大きさにならずに排卵が起きてしまっていると推測しました。
LH(黄体化ホルモン)という脳下垂体から出るホルモンが、エストラジオール(子宮内膜を厚くする卵巣から出るホルモン)の十分な上昇を待たずして、大量に出てしまうことで引き起こされるものです。
「卵胞から出るエストラジオールの量が十分でなく、内膜が厚くならないのではないか?」と考え、子宮周りの血流をよくするとともに、卵巣への血流および命令系統である視床下部―脳下垂体系への治療を行う方針を立てました。